one day
 気がつくと、首に少し痛みを感じ、首筋が汗ばんでいた。
 僕はあたりを見回しエレベーターの中の壁にもたれかかっている事を確認した。どれくらい気絶していたのだろうと思ったが、時計を持っていない僕にはわからなかった。エレベーターの針は1階を指して止まっている。僕は起き上がりエレベーターの扉を開けた。外はせわしなく雨が降りつけていたが、そのまま外に出て行った。もちろん傘も持たずに。
 僕は歩いた。と言うよりは勝手に足が交互に動いていた。死んでしまった人の事や、先天的に稀な奇病にかかっている子供達の事を思いながら歩いた。また、ファッション雑誌から飛び出してきたカッチリと飾りたてた女の子達の事、働く場所がないと嘆く汚い格好をしたおじさんの事、を思って。しかし、それはTVで見た事を断片的に思い出しているだけだった。バカバカしくなって、他の事を思い出そうとしたが、TVの断片は波のように留まる事がなく、頭の中で繰り返した。
 そのどれもが自分には関係ないものばかりである事に気付いても、どうしようもなく、僕の中を無理矢理通り過ぎていった。僕は意識的に信号を守り、車にひかれないように歩いた。それ以上の事はできない憐れな動物の様に。行き交う人々は、僕の目にも、彼らの目にも写りはしないようだった。僕は操られた亡霊の様に歩き続けた。自分の墓石まで辿り着けたら、自ら土を掘り起こし、棺に入り、スイッチが切れる。次に来た亡霊が僕が入った穴を埋めてくれる。完璧に管理された世界の死人のように。

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