one day
 しかし、現実の僕はびしょ濡れで橋の上をゆっくり歩いていた。急に、濡れてまとわりつく衣類を不快に感じ、ジャケットを脱いで、河に捨てた。自分でも捨てる事は無い、しかも河に。と思ったが、もう随分前から、自分の頭と体は半分も自分の意思では動かないようになってしまっているようだった。何かに支配されているうちは、全然嫌じゃない。むしろ心地よく、何より楽だ。まるで、良質の粉をやっているか、かなり疲れた体で清潔な自分のベッドに倒れ込む時のように。だが、いずれの快楽や心地良さも長くは続かない。そして、後悔する事になる。それが自省できる後悔ならまだましだ。ここ一番の後悔は、何も伴わない。100%それ自体だ。
 それでも人が後悔の念を抱く限り、世の中捨てたものじゃない。
「そうだろ?」
 突然どこからか声がした。辺りを見回したが、誰もいない。どうやら、声に出して自問自答していたみたいだ。今度は自分の意思で声に出した。
「そうだろ」
 さっきと全然違う声に聞こえたが、久しぶりに自分の声を聞けた気がして少し気分が安らいだ。ゆっくりと深呼吸を3回してから、僕は自分の意思で歩みを止めた。
 うまく体が止まる事ができず、倒れかけた。そして気分がすこぶる悪い。胃の中の物が少しだけ喉の先まで出てから、それを飲み込んだ。
 一体どうなっているんだ?何故俺はここに居る?
 ここは何処だ?
 俺は何をしているんだ?
 一つ一つの疑問を丁寧に繰り返したが、結局ぐるぐる回っているだけだ。思えば、俺自身の人生も同じだ。いや、それより酷い。後に残るのは糞と炭素だけ。それを全て自分の責任にして前に進む事ができる程、俺は大した人間じゃない。ろくに働きもしないで、何も言わず、腐っていくだけだ。何で生きているのか不思議に思う。自殺する意味も分からなければ、根性もない。いや、そんなダウナーな人生観はどうでもいい。俺は分からないままでも、死ぬまで生きる事に決めたんだ。家に帰ろう。
 家に帰る。なんて素敵な響きだ。俺にはまだ帰る家があるのか。誰が来ようが知った事じゃない。誰が来ようと付き合ってやる。そしてぶち壊してやる。俺のドアが無惨に破壊された様に。待ってろクソッタレ共、俺がぶち壊してやる。

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