one day
 僕はタクシーを捕まえて家に帰ろうとした。僕はやる気満々だった。何に?と聞かれても困る。突発的なものに理由をつけようとしても、常にそれは後付けのものでしかない。要するに、何もしていない状態が長く続くと人は情緒不安定になるという事だ。
 タクシーの運転手は黒人だった。ほぼ純粋な血筋だと思わせる程、彼の肌は青いほどに黒かった。彼は、中国人か?と僕に聞いてきた。僕は日本人だ、と言った。中国人なら別料金だ、と彼が言う。僕は、黒人の運転手だと割引がきくんじゃなかったか?と返した。彼は、思った通りの真っ白な歯を出して気持ち悪く笑った。若い黒人の中には、自分達の先祖が、一時期奴隷だった事なんか信じられないやつだっている。M・L・キング牧師も真っ黒、いや、真っ青だ。それもそのはず、俺だって縄文時代に俺の先祖が何をしていたかなんて夢にも思わない。そもそも、先祖の血筋なんて犬の血統書より興味がない。運転手は、何か話をしては、笑った。その話の内容は、誰が一番くそったれかって事についてだった。僕は、俺の家のドアをぶっ壊しただけでどっかに行っちまった奴だと彼に答えた。彼は僕の話なんか聞いてなかったが、言った。俺の娘以外は全員くそったれだ。もちろん、俺もくそったれだ。だが、今は娘がいるおかげでくそったれの中でもまだマシな方にいられる。娘のおかげだ。娘がいるから俺がいるんだ。逆じゃない。わかるか?お前にわかるか、チャイニーズ?
 僕は首を振った。
「いや、俺はチャイニーズじゃないよ」
「ああ、そうだったな。娘は4歳なんだ、写真みたいか?ああ、後でな。しかしお前知ってるか?近頃の幼稚園じゃあ…」
 彼は自分の娘に関する事を話し続けた。僕は湿った煙草に火を点けるのにてこずっていた。辛うじて煙草に火をつけた頃には、僕は彼女の父親の次に彼女について詳しくなっていた。でも、それもほとんど一瞬の事であり、片っ端から忘れていった。


< 14 / 18 >

この作品をシェア

pagetop