one day

　壊れたドアは管理人に言えばいいか。しかし、このアパートメントに管理人など居ただろうか。ぼんやりとそんな事を思っていた。眠くなってきたので座ったまま目を閉じ、頭をゆっくり垂れた。力が抜け、右手に持っていた煙草を落とした。
　誰かが落ちた煙草を拾い、僕の右手に戻した。その瞬間、一瞬で全身の毛穴から汗が捻り出た。じとじと少しずつ全身にまとわりつく。顔を上げる事はしなかった。動けなかったのか動かなかったのかはわからない。ただ、じっとしていれば助かるかも知れないと微かに思っていたのかもしれない。
　目の前の気配が音を立てて、動きだす。コツ、コツ、コツと10回程聞こえてから止まり、話し始めた。
「そうだな。私は君の事を思いきり殺す事ができるけど、まあそれはやるとしてももう少し時間を置こう。でも、気分が変わったらいつでも、いくつかある最低な死に方の中の一つを体験できるという事はしっかり認識しておいて欲しい。その中の一つでも君は知っているかな？」
　僕は何かアクションを取ったら何かが終わる。もしくは自分に危害が加わると感じ、顔を上げる事もしなかった。
「そうかそうか、あくまで私の存在を拒否するというのが君の意志だという認識でよろしいかな？そうなると私は君に対して私の存在を認めてもらう為の行動をオートマチックに取らざるをえないが、それでよろしいかな？」
　そう言われても僕は何もできない。YESでもNOでも同じ結果になる問いに答える術を僕は何か準備しておくべきだったのか？