one day
 自宅へ帰り、シャワーを浴び、着替えて出かけた。特に行くあてもなかったので、古本屋と中古レコード屋を回った。何冊か小説を買い、一枚レコードを買った。
 家に帰ると、アパートのドアに何か書かれた紙が挟んであった。どうせ何かの広告か水道の集金だろうと思い、書かれている事は読まずに、丸めてポケットに入れた。
 部屋に入って、買ってきたレコードをかけながら、パスタを茹でた。雨の日はジャズに限る。しゃがれたトランペットとピアノにウッドベース。雨の音で途切れ途切れにしか聴こえない。雨の音とトランペットとピアノがそれぞれ絡み合い、ウッドベーズがそれを支える。そんな音を想像しようとしたけど、無理だった。
 パスタが茹で上がって、湯切りをしている時に、ドアをノックする音が聞こえた。僕は無視してパスタソースの仕上げに取り掛かった。料理を邪魔されるのはごめんだ。
 そして、10分程経って、トマトの冷製カッペリーニができあがったところで、念の為、ドアの小窓を覗いてみると、帽子を被りゴム引きコートを着た小柄な男が立っていた。ドアまで行き、「どちら様ですか」と声をかけた。しかし、返事はなかった。僕は警戒して、ドアを閉めたままこちらからノックしてみた。そうすると、男は帽子を取り「開けて下さい」と言った。顔を見ると、それは男ではなく若い女だった。歳は多分23歳くらいだろう。
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