one day
 僕はコーヒーを淹れて、その子に差し出した。
「私の名前はカリカ。仮名です。本当の名前は言えません。とりあえずそう呼んで下さい」
 いきなり何を言い出すのかと思ったが、とりあえず耳は聞こえるようだ。僕は少しがっかりした。
「そうなんだ。それはわかったけど、どういった御用でしょうか?」
 僕は冷製カッペリーニを食べながら言った。だから、その言葉は所々もごもごしていたと思う。カリカは少し疑ったような目をしたが、すぐに表情を戻し言った。
「私は叔父に言われてここに来ました。叔父の名前はコリス・デル・ファスト。」
 僕は暫くコリス・デル・ファストという名前を思い出そうとしたが、そんな名前には覚えがなかった。
それをその子に伝え、「それも仮名かな?」と尋ねた。
「いえ本名よ、昔日本のネリマという所に住んでいたとあなたに言えばわかると言われたわ」と言った。
「ネリマ、練馬区の事?確かに僕はここに来る前に日本に住んでいたけど、僕が住んでいたのは目黒区だけど。」
「そんな事、私にはわからない」
「確かにそうだろうね。でも、僕もわからないよ。」
カリカは少し苛立ったような、残念そうな顔をした。
「その叔父さんが君に伝えたここの住所は間違いないの?」
「住所は間違いないし、あなたは日本人よね?日本人はこの街にあなたしかいないはずよ」
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