部活探偵のツンデレ事件簿-タイム・トリッパー殺人事件-
「超能力よ……」

前原は亜矢子の言葉の意味が一瞬理解出来なかった。猫パンチで不意打ちを食らったみたいな表情を浮かべたまま亜矢子を見詰めて黙りこむ。琢磨は再び頭を抱えてテーブルに突っ伏した。

「――どういう、意味かね?」

明らかな作り笑いを浮かべて前原は、言葉を絞り出したと言っても良い口調。言葉を噛締めると言う表現がぴったりの面持ちでそう尋ねた。げ……亜矢子は得意の表情を満面にたたえ、不敵な笑みを浮かべながら、全てお見通しな表情で力強くこう言った。

「どう言う意味って、そう言う意味よ。これですべてを丸く説明できる。この事件の犯人は、瞬間移動が出来る超能力者の仕業。いきなり理事長室の真ん中に現れて理事長を殺して再びその場から消えて無くなった。密室になっちゃったのは、その犯行が生んだ副産物にしか過ぎない……」

そこまで話した処で、ようやっと復活した琢磨が亜矢子の言葉をひったくって前原に向かって深々と頭を下げると同時に亜矢子の後頭部を鷲掴みにして、テーブルの上に思い切り打ちつけた。

「す、すみません、くだらない話で、今のは全部こいつの妄想ですんで、さらっと忘れてやって下さい」

ごつんと言う鈍い音と共に打ちつけられた亜矢子の額をテーブルにぐりぐり押しつけながら、琢磨は全力でわびている。人生始まって間もないが、おそらく、ここまで全力で謝ったのは、初めての筈だ。どんなに幼いころでも、ここまで本気で謝れば、何かしらの記憶やトラウマになっていて記憶に残っている筈だ。しかし琢磨には思い出す事が出来なかった……つまり、初めてなのだ。
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