部活探偵のツンデレ事件簿-タイム・トリッパー殺人事件-
二人の様子を少し引いた処から眺めていた前原は、ふうっと小さく溜息をつく。そして懐からピースの箱を取り出して一本口に銜えると慣れた手つきで火をつける。そして一息吸いこんで紫色の煙を吐き出してから、窓の外に眼をやった。雨は相変わらず降り続いて、暫く止みそうにない気配だった。


2011年6月13日(月)午前14:00 『職員室……』


「沢村先生……」

直子は自分の名を呼ばれている事に気がついて、片付けていた事務仕事の手を止めて、声の方に向かってゆっくりと顔を上げた。

「どうしたんですか、沢村先生」

心配そうな口調の教頭は、腫れ物にでも触る様な慎重な口調で亜矢子の瞳を覗き込む。

しかし、直子はその行動の意味が理解出来ず、根拠の無い動揺を見せた。あと三年で定年を迎えるベテラン教師の教頭は、直子の態度を見て、何か悩み事でもあるのではないかと言う事を察したのだ。色々な意味で、教師と言う職業は、極限まで追い詰められる事が多い。

その原因は、生徒だったり生徒の親だったり、稀では有るが教師同士の派閥争いの場合も有る。人間関係は究極の悩み事でも有る。その悩み事を解決するのが教頭で有る自分の役目だと言う使命感に燃えた瞳を直子に向けたのだが、直子はその視線に眼を伏せて、暫くの間じっと沈黙してしまった。

そして思いつめた様な表情で顔を上げると、どう見ても不自然な笑顔で教頭を見詰め絞り出す様な声で、彼に向かってこう言った。
< 86 / 121 >

この作品をシェア

pagetop