部活探偵のツンデレ事件簿-タイム・トリッパー殺人事件-
教頭は仕事を再開した直子の横顔を見ながらそう言うと、ゆっくりと自分の席に戻って言った。直子は自分の態度を少し後悔した。目上の者に対して自分らしくない失礼をしてしまった事、そして、他人に異変を察知される様な態度をとっている事。そう、自分の考えている事を察して貰っては困るのだ。全てを丸く収めないと、取り返しがつかなくなってしまうのだ。

直子は、ふと顔を上げて窓越しにグラウンドの様子を見詰めた。そこでは男子が陸上の短距離の授業をしているのが見える。全力で100メートル走るなどと言う事は、学生を卒業して以来した事は無い。学生時代と言うのは、その環境下に無い限り人生の中で二度としないであろう事が含まれる。

青春時代を懐かしむ年代には、遥かに遠い筈だったが直子の心は揺らめく蝋燭の炎の様に儚く揺れる。そして心がついた溜息が、その炎を吹き消して彼女の思考は凍りつく。梅雨時には珍しい晴れ間を見せる空の色に自分の姿が写り込む様に感じて、零れ落ちそうになる涙を堪えるのが精いっぱいだった。
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