サヨナラいとしい子
アタシは、
ハルトより先に逝くわ。


でもね、アタシは、
きっと大往生だから、
気に病むことは
ないんだからね。




そして、その次の日、

会社の食堂で、
その女の子が一人で
座っているのを見かけて、

ハルトは思い切って
話しかけたんだそうよ。


「元気出して下さいね」って。







その女の子は、
携帯電話の壁紙にしていた
亡き愛犬の写真を眺めていた。


ハルトの励ましに
微笑んで「ありがとうございます」
って返してくれたんだって。




その日からよ。

ハルトの話の中心が、
その女の子になったのは。




アタシは、いつになったら
その女の子をうちに
連れてきてくれるのか
ワクワクしてたんだけど、

いっこうに二人の関係は
進展する気配がない。



“今日廊下ですれ違ったとき
会釈できた”…とか。


“今日彼女が着てたワンピースが
可愛かった”…とか。



中学生じゃないんだから。



“彼氏いるのかなぁ”…とか。

“派遣の期間は
いつまでなのかなぁ、
更新はあるのかなぁ”…とか。



…本人に聞きなさいな。



“今日、出先から帰社したとき、
「お疲れ様でした」って
言ってくれて嬉しかったな。

でもただの社交辞令の挨拶だしな…”
…とか。






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