サヨナラいとしい子
そして

あの子は、
アタシに名前をくれた。


ココアっていうの。



いつの間にかアタシも
すっかりおばあちゃんに
なっちゃったわ。


もう長くはないでしょう。



自分の生涯に
思い残すことは何もない。


いっぱい幸せだったからね。



心残りは一つだけ。



あの子の、恋のこと。




今日もあの子は
ため息をつく。


頬杖をついて
遠くを見てる。


思い通りにならない恋で
悩んでる。



「…お前に愚痴っても
仕方ないのにな」


眼鏡の奥で
寂しそうに目を細めた
アタシの飼い主。


名前は、ハルト。



そうね、
アタシに言っても
仕方ないわね。


アタシはいいのよ、
いくらでも
話は聞いてあげる。



でももうアタシには
時間がないの。


のんびりしてないで、
早く好きな女の子を
デートにでも誘いなさいな。


見てるだけじゃ
貴方の良いところも、
想いのたけも
伝わらないわよ?


わかってるでしょ?


しっかりしなさい、

貴方ももう25に
なるんだから。



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