サヨナラいとしい子
それは偶然の出会いだった。



「うちの会社の
派遣の女の子なんだ」

って言っていたわね。


同じ会社に勤める者同士が
偶然同じ病院で
鉢合わせたってわけ。



アタシたちが
病院に着いたとき、

女の子は泣いていた。


飼ってた犬が
病気になって、

ちょうどその病院で
息をひきとったときだった。


アタシたちも、
思わず同情してしまって、
言葉が出なかった。

他人事じゃないものね。

結局、あいさつしか
できなかった。




家に戻ってから、
ハルトは、アタシに言った。


「さっき病院で会った子、
同じ会社の子なんだ。
今まで話したことなかったんだ。
部署が違うから、
顔見たことあるくらいで…」


そして、少し照れながら、
控えめな声でつけたした。

「可愛い子だな、
とは思ってたけど…」


って。
あら、なんだかんだで、
ちゃっかり見てるとこ
見てるんじゃないの。


そうね、確かに
可愛らしいお嬢さんだったわ。

ふんわりと甘いいい香りがした。


「うまく励まして
あげられれば
よかったんだけど…」

口べただものね。


「俺にも、お前がいるから、
人ごとじゃないもんな…」


そうね。




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