天使の羽根
Act.1
夏の残り香を交えた麗らかな朝の遊歩道に、暖かな気流を宿した風が吹き抜けていく。
街道脇を忙しなく走り去る電車の影を横目に、高校三年に進級したばかりの高柳穂高(ほだか)はやる気のない足取りで歩いていた。
肩まで伸びた茶髪が、今しがた通り過ぎた風に靡きながら朝陽にキラキラと透け、煌びやかに見える。
顔半分を覆い隠すほどの前髪から覗く色素の薄い茶色の瞳は柔らかくも見えるが、誰も寄せ付けないほどの鋭さも持っていた。
薄い蒼のブレザーを肩に掛け、緩めたネクタイにシャツの袖を肘まで捲り上げている格好からしても、見た目には素直な青年風には見えない。