天使の羽根

「あ、でも智子さんがまだ出てきてない!」

「何だって?」

「大切な物を取りに行くって言って、まだ中に……」

「そんな」

 不安げに穂高は家に振りむいた。

 既に裏からの火の手が回り、家を焼き始めている。燻るような煙が朦々と上がる。

 穂高は、ギュッと唇を噛締めた。

「だったらあずみは早く豊子さんに付いて防空壕へ行け、智子さんは俺が連れてくる」

< 397 / 562 >

この作品をシェア

pagetop