天使の羽根
穂高は、川の水を目指す人波に揉まれ、成す術がない。
それでも一人の穂高は何とか、その勢いに呑まれまいと踏ん張る事が出来ていた。
「穂高君!」
「おじさん!」
何とか耐えていた清だったが、百合を抱えたままでは限界があった。穂高が伸ばす腕を離れ、束の間に水を求めた人波に押されて行った。
「おじさん! 百合ちゃんっ!」
掴みかけた指先が、絡む事なく遠ざかる。
「くそっ!」
穂高は泥水を噛みながら、何とか岸辺に辿り着いた。しかし、そこには清の姿も、百合の姿もなかった。