天使の羽根
◇
次第に辺りが薄っすらと明るさを取り戻し、朝が来たことを知らせた。空襲で焼けたのは人間の世界だけではなかったようで、鳥のさえずりさえも聞こえない、静かな朝だった。
見上げる空は、まだ煙が燻り、朝陽も弱い。
やがて、転寝をしていたあずみが目を覚まし、穂高を見やる。
穂高は一睡もしていなかったようで、目は真っ赤に充血していた。泣き腫らした瞼が痛々しく見えるが、あずみは何も聞かなかった。
「帰ろう」
静かに言って立ち上がった穂高は、大切そうにキヨを抱き上げた。