天使の羽根
褪せた写真の表面が、滴に濡れる。
「そんな……たかが写真の為に……」
「当時の智子さんの気持ちは解らないけれど、燃やしたくない大切なものだったんだろう」
「こんな写真なんかの為に……」
穂高は、あまりの悔しさに、唇が切れるほどに噛締めた。
「他にも幾つか写真を抱き締めていたそうだよ。婚約者の写真を何枚も……もう会う事がなくて、形がなくなっても、写真の中で生きている思い出を燃やしたくなかったんだよ、きっと」
「だからって、命がなくなったんじゃ意味ねぇし……」
「そうかもしれない……でも、そうじゃないかもしれない。それはもう、智子さんにしか解らない価値だから……」
「そんなの……」