天使の羽根

Act.1






 十月十五日。

 その時を待っていたかのように、黄色い満月が空に浮かび上がっている。

 史恵は、その満月を、台所の窓から見上げ、小さな溜息をついた。

「母さん」

 背後から聞こえた声に史恵は動揺しながら、微かに濡れたまつ毛を指先で拭うと、何もなかったように振舞い夕飯を食卓に並べはじめた。

「いや~ん、今日も仕事忙しいのよ~見送りできなくてごめんね~」

< 521 / 562 >

この作品をシェア

pagetop