天使の羽根
そのまま、史恵はハイヒールの高い音を弾きながら必死に走った。
なるべく遠く、遠く――……そう思ったのか、ひたすら穂高から離れるように走った。
だが、暫くして止め処なく溢れる涙で視界が遮られ、史恵はゆっくりと足を止めていく。
「穂高……」
そう呟きながら立ち止まった史恵は、両手で顔を覆い隠すとしゃがみ込み、堪えていた声を上げ泣いた。
「穂高……穂高……」
愛しい我が子との別れに、悲しみが溢れていた史恵は、何度もそう名を呼び続けていた。