九我刑事の事件ノート【殺意のホテル】
「ふたりともこれから夕食かな。」
「ああ。
隣の大食娘が腹が減ったと煩く…」
「ないでしょっ!
いい加減ツッコミが面倒だわっ」
「仲いいねぇ」
「「どこがっ!」」
あははは、なんて爽やかに笑う青年。
兄が李徴なら彼は袁慘か。
あ、ちなみに最近現代文の授業で山月記をやっただけであり、決して私が頭いいと自慢しているわけでは。
「楽しんでってよ。
今日のディナーはいつもより豪華だからね!」
自慢げに八部は腕を組む。
「なにかあるのか?
開店何周年とかの記念みたいな…」
「いやいや、今日はうちのオーナーの偉いご友人がいらっしゃってるそうだよ。
なんでもホテル建設に資金援助してくれた人だとか。
だからシェフも、いつもより気合い入れてるんだ。」
「いつも気合い入れろよ、客商売なんだから」
「キャリア路線まっしぐらなお前には客商売の辛さなんてわかんないよ」
「私も同意」
むっ、と兄が私を睨んだ。
キャリア路線?
うん、兄は東大出身者なんだ。
ちくしょう。