九我刑事の事件ノート【殺意のホテル】
二人の会話を聞いていたさなか、不意に彼方が席を立った。
「おい、九我…」
「俺一応警察官だから」
ニヤリと笑って、もめる二人の男のテーブルまで歩いていく。
例の美人が彼方に気付いて、「あの…先生」と控えめに声をかけた。
「なんや、自分。文句があんならこいつに言いや」
指をさされて中年は不機嫌丸出しな顔をする。
「文句といいますか、先ほど『ゆする』などという聞き捨てならない言葉が聞こえたものですから。」
彼方はズボンのポケットから黒い手帳を取り出した。
言わずと知れた、警察手帳。
「警視庁捜査一課の九我彼方と申します。
恐喝されているのなら、是非ともご相談にのりますが…」
いつもは見せない愛想抜群なニコニコ笑顔で彼方は言った。
中年の男は気まずそうに彼方から視線を外した。
ハゲすらも同じく、「ああ、いや」と曖昧な返事を返した。