九我刑事の事件ノート【殺意のホテル】
「警察の方といいましたかな。」
男は彼方に向けて低く落ち着いた声でそう言った。
「ええ。」
「ふむ。
私、四井 尚彦(ヨツイ ナオヒコ)と申しまして、外科医をしています」
名刺を出されて受け取れば、楷書体で名前と電話番号その他が刻まれている。
四井 尚彦。
年齢は5、60代ってところか。
「あ、私は、五家宝 凛(ゴカホウ リン)と申します。
大学生です」
五家宝は恭しく礼を添えた。
繊細で優しそうな印象がある、大和撫子な美人だ。
「先ほど『先生』さんはああ言われましたが…まさか貧乏ゆすりの話は嘘ですよね」
「……ええ、失礼をした」
四井は言いづらそうに目を伏せた。