九我刑事の事件ノート【殺意のホテル】

「彼岸花だ。
ちょうど秋のこの時期に咲く」


兄は見惚れる私に事務的な口調で説明を為す。


「秋に水泳の合宿しに海に来るあなたは何なんですかね」


「いいだろ、ここ温水プールあるんだから。

クラゲや海蛇、海藻やら鮫やらに怯える必要無しで溺れても死なない。」


「じゃあ海に来なくていいじゃんか」


「物は雰囲気だ。
水に入るんだから潮風が吹いてる方が母なる海を連想しやすい」



しなくて結構、と突っ込もうとしたが、いかんせんこの兄は口喧嘩で負けたことがない。


捜査一課での土産話も殆どが上司を負かしたとかそんな話ばかりする。



水泳合宿も上手く乗せられて連れてこられたわけだが、まあ海の景色は嫌いではないためよしとしよう。



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