九我刑事の事件ノート【殺意のホテル】
「八部、合鍵は?」
「オーナーがみんなまとめて持ってるよ。仕方がないから貰ってくるか」
八部は返事を待たずに辻が来た廊下を走っていった。
「一条さん、大丈夫ですかー?
一条さーんっ」
「おかしいですね、こんなに呼べば普通気付くはずですが」
辻は扉に耳を押し付けて中の音に耳を澄ませるが、まったくもって無音。
寝息やシーツが擦れる音すらしないから不気味にすら思える。
「あーっ、もしかして!」
唐突に扉から耳を離して辻は大声で叫んだ。
どうしたんです、と彼方が問う。
「もしや一条さんとやらは双葉南を殺害し、すでに逃亡をはかったのでは!!
もしくは中ですでに自殺しているとか…」
怪談を語るようにおどろおどろしく続ける辻は、自分で「ひえーっ!!」と奇声をあげている。
そんなことはお構いなしに、自殺逃亡の可能性も捨てきれないと思った彼方は扉を破る方法を探して一通りを観察した。