九我刑事の事件ノート【殺意のホテル】
「あの格子、破れますよね」
彼方が指差した扉の上部分には、細く脆そうな格子窓が取り付けてある。
隙間は狭いために、破らなければならないだろう。
ちょうど一条部屋の前には喫煙ルームがあり、彼方はそこから椅子を二つ引き摺ってくる。
椅子の片方を扉の前に設置した。
「じ、自分が登ります!」
辻が自ら台の方へ登った。
ぐらついた椅子にひっ、と僅かに悲鳴を漏らしながら辻はなんとかバランスを保つ。
「窓、破れますか」
彼方はもう片方の椅子を辻に手渡した。
「ああ、はい、大丈夫…大丈夫…」
バランスに集中しながら、辻は椅子を後ろに持ち上げた。
落ちそうになる辻ね背中を彼方が支える。
「行きますよー、せーのっ!!」
バキッ、と木が割れる音がして、椅子は足を降りながらも一条の部屋に入り込んだ。
バランスを保ちながら、辻はその向こうを確認する。
「一条さん、いましたか?」
彼方が問うも、辻は顔を真っ青にして硬直した。
「もしもし、刑事さん?」
「う…」
「う?」