九我刑事の事件ノート【殺意のホテル】
床に倒れこんだ辻の代わりに、彼方は椅子に登って一条の部屋の中を覗いた。
「あちゃー…」
やっちまったか、と続きそうに呟いて、彼方は実に冷静に室内を観察する。
「どうした!」
廊下をドタドタと走りながら、十和田とオーナーの宍戸、そして八部がやってきた。
椅子から軽やかに降りてそれをどけると、彼方はひどく無表情な顔で答えた。
「一条さんは心臓付近を刺されて血だらけです。
生死は不明ですが急いで鍵を」
「は、はいっ!」
宍戸が震える手で鍵束を取出し、鍵穴に差し込んだ。
扉が開いた瞬間に十和田が飛び込み、仰向けに倒れた一条晴臣の脈を確かめた。
「どうです?」
彼方の問いに、十和田は首を横に振った。
引きつった悲鳴が、しっかり人数分背後から聞こえていた。