九我刑事の事件ノート【殺意のホテル】



「犯人は、被害者と顔見知りだったんでしょうかねぇ。
室内が荒らされた形跡がまったくない」


部屋は、ベッドや絨毯、荷物などどう見ても不自然とは思えない。

唯一ベージュの絨毯についた血痕だけが目を引いている。


彼方はボストンバックの中の一条の所持品を探りながら答えた。


「だとしても気になりますね。
一条氏の部屋は確かに鍵がかかっていましたから…鍵が室内にあるなら密室ということに」


「鍵なら、ありますよ」



彼方に答えたのは、鑑識の一人。

丸眼鏡をかけた鑑識さんは、入り口とまっすぐ向かい合った窓の下にあるテーブルを指差した。


ランプだけ置いてある殺風景なテーブルの上には、綺麗な装飾の金色の鍵が確かにある。



「密室ですな…これは」


「でも自殺って可能性は低いですよね、ナイフが胸に刺さっていましたし」



彼方は窓の向こうに広がる海を眺めながら言った。

ここは五階。

死ぬなら、ナイフを突き刺すより飛び降りる方を選ぶに決まっている。

一条が自らを刺殺するような異常人には見えなかったわけもあり。



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