九我刑事の事件ノート【殺意のホテル】
「タカさん!」
十和田は鑑識さんに声をかけた。
彼方に鍵の位置を教えたタカさんと呼ばれた鑑識さんは、小走りに十和田のところへやってくる。
「遺体の状況は、なにかわかったかい」
「いま司法解剖に回されました。死亡推定時刻はお聞きの通り」
「…そうか」
「ただ、ひとつ妙なことが」
十和田と彼方の目の色が変わり、どんな?と空気でタカさんに詰め寄った。
「あの仏さん、身体に汗はないんだが下着が妙に汗が染み込んでたんだ。
変だろ?
身体は綺麗なのに下着だけ汗をかいてるなんてさ」
確かに、と彼方は頷いた。
「運動をしたあと、肌だけ汗が冷えたんじゃないですか?」
辻が意見した。
しかしタカさんが首を横にふる。
「だとしても痕跡くらいは残る。遺体はまるで拭かれたみたいに汗の成分は検出されていないらしい」
「じゃあ風呂に入ったあと、同じ下着を着た」
「大学の偉い先生がか?」
「ですよね…」
辻は面白いほどに小さくなった。