九我刑事の事件ノート【殺意のホテル】
彼方は窓から身を乗り出してみるが、ベランダは無いために他の部屋から飛び移ることは不可能。
「十和田さん、この部屋の隣と真下って誰の部屋だかわかりますか?」
「え、ああ」
十和田が目配せし、辻がそれに答えた。
「窓に向かって、左側が双葉南。右側が四井尚彦。
そして真下は、五家宝凛です」
「そうですか」
まさか忍者じゃあるまいし、縄伝いに部屋を移動するなんて。
念のために、広い窓枠を一通り調べてみた。
「十和田さん」
彼方は窓の手摺りを指差して十和田を呼ぶ。
「なにかを擦った跡があります」
手摺りに、縦に一本だけ薄くラインができていた。
「でもこんな細糸じゃあ人間の身体は支えられませんよ」
「わかってます」
それから彼方は、テーブルの上のランプやら格子窓やらを調べ廻った。