九我刑事の事件ノート【殺意のホテル】



彼方は窓から身を乗り出してみるが、ベランダは無いために他の部屋から飛び移ることは不可能。


「十和田さん、この部屋の隣と真下って誰の部屋だかわかりますか?」


「え、ああ」


十和田が目配せし、辻がそれに答えた。


「窓に向かって、左側が双葉南。右側が四井尚彦。

そして真下は、五家宝凛です」


「そうですか」




まさか忍者じゃあるまいし、縄伝いに部屋を移動するなんて。

念のために、広い窓枠を一通り調べてみた。



「十和田さん」


彼方は窓の手摺りを指差して十和田を呼ぶ。


「なにかを擦った跡があります」




手摺りに、縦に一本だけ薄くラインができていた。


「でもこんな細糸じゃあ人間の身体は支えられませんよ」


「わかってます」



それから彼方は、テーブルの上のランプやら格子窓やらを調べ廻った。



< 57 / 132 >

この作品をシェア

pagetop