九我刑事の事件ノート【殺意のホテル】
「あ」
僅かに聞こえた兄の声。
なにかを見つけたらしいその視線を辿れば、ワイシャツと黒ズボンにエプロンかけた若い男性が此方に向かってきていた。
向こうも気付いたらしく、笑顔になって軽く手を上げる。
「九我!
ホントに来たのかよ」
「せっかくだからな」
にやりと笑う兄は意図的ではないにしろ意地悪く見えてしまう。
それでもよく女を引っ掛けてくる兄であるが、こんな奴のどこがよろしいのか。
妹にはさっぱり分からん。
「刑事が仕事休むなよなーっ」
「今日はもともと非番だ。
家族をないがしろにはしたくないんでね」
ないがしろにして結構だよ。
いくつだと思ってんだ畜生め。
そんな私の視線に気付いたか、男性は私に笑いかけた。