九我刑事の事件ノート【殺意のホテル】
「そういえば、双葉氏の遺体、右手を握っていましたよね。
なにか握っていたんですか」
双葉の遺体は、親指を上にして右手が軽く握られていた。
刑事といえども本来は管轄外の人間ゆえに、彼方は詳しく調べることはなかった。
「いえ、特には。
ただ遺体は右手を握ったまま硬直したようです」
「そうですか」
彼方が再び思索に入った。
「飛び込み台に登ってなにかを掴もうとしたんですかね。」
「なにをだ、辻」
「えっと、三枝みたいに都合の悪い写真を見せ付けられて。
取り返そうと犯人に飛び掛かった瞬間、かわされてプールに…」
「…あり得なくはないですね」
「ですよねっ!」
前述したが、明らかに年下な彼方に褒められて辻は尻尾を振り回すがごとく喜んだ。