月夜の天使
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「私、男の人に生まれたかったなぁ」

「瑞樹、『天使の泉』ってあったよね?」

占いの館に訪れた半年後の今、18歳になった加奈と16歳の瑞樹は満月に照らされ、公園のベンチに座っていた。

「そこで言われたの。私は男性に生まれるはずだったって。お母さんは女の子の私を望んでなかった。ねぇ、瑞樹、私・・・間違ったのかな?」

パタパタと涙がつたう。

自分の顔が情けなくて瑞樹の顔を見られない。

「加奈は間違ってないよ」

瑞樹の声がしんと静まり返った公園に優しく響いた。

「母さんはちゃんと加奈を愛してるし、加奈は女性として生まれたことにちゃんと意味がある」

「ほんとにそう思う?」

「加奈って泣くとかわいいね」

「瑞樹!真剣に聞いてるのに、からかわないで」

「あはは、ごめん」

瑞樹がふわりと笑う。

やっぱり瑞樹の笑顔は天使だ。

瑞樹の柔らかな髪が、秋の夜風に吹かれてサラサラと音をたてる。

「瑞樹、来てくれてありがと。瑞樹はいつも助けてもらってる」

「加奈のためなら、どこへでも。加奈が僕を探せば、僕はどこへでも飛んで行くよ」

なんでもわかってくれる瑞樹。

瑞樹といると、母の冷たい顔や、つらかった事を全て忘れることができた。

今夜はもう少し、瑞樹といたい。

「瑞樹、もう少しだけつきあって」

「いいよ。甘えんぼの姉さん」

瑞樹がいたずらっぽく笑った。

瑞樹の笑顔が好き。

加奈の胸がチクリと、痛んだ。












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