月夜の天使
「カナン!」

孤児院に着くなり、17歳になった月野いずみがカナンを抱きしめる。

「カナン、よかった!奴らの気を感じたの。トオヤ、ミズキあなたたちが護ってくれたのね?」

「ああ、カインの奴らは姿を現さなかったが、かすかに気を感じた。どこかで俺たちを見ていたはずだ」

トオヤが大人びた表情で姉を見上げる。

「カナン、あなたにはもう本当のコトを言わなければいけないわね・・・。あなたの身に危険が迫っているの」

いずみがカナンを愛おしむように見つめる。

春の優しい風が『天使の泉』にそよぎ始める。

「カナンの命が永遠だってことは言ったわね・・・」


月が『天使の泉』を優しく照らす。

少女は懐かしいものを見るような瞳で月を見上げる。

「あそこが、カナンのふるさとなんだ」

まだ、愛しさも切なさも知らない小さな少女。

ただ、彼女にあるのは、月のように優しく周囲を照らす瞳。

「カナン、一人で外に出たらだめだって言ったろ?」

振り向くと、トオヤとミズキが立っていた。

「トオヤ、ミズキ・・・カナン、昼間のことが気になっちゃって」

「カナンには僕もトオヤもいずみさんもいる。心配いらないよ」

「違うの。カナン、変なの。命が危険って言われてもカナンなんとも思わなかったんだ・・・。ただ、ミズキとトオヤと離れたくないって思ったの。ずっと3人一緒にいたいって」

「カナン・・・」

二人の少年は小さな少女を優しく見つめる。

「ごめんね、トオヤ、ミズキ。カナン、昼間二人のこと嫌いって言っちゃって・・・」

「なぁーんだ、そんなこと気にしてたんだね、カナンは」
ミズキとトオヤが顔を見合わせて笑う。

「カナン、何度生まれ変わってもこれだけは変わらないよ。トオヤ、ミズキ、カナンは二人が大好き。月が見守ってくれる限り私たちは永遠に一緒よ」

月が少女の決意を優しく照らし、少女もまた、その優しい瞳で少年の心を照らす。

宿命の日が、刻々と迫っていた。


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