月夜の天使
「これを君から瑞樹に渡して欲しいんだ」

男性が取り出したのは、何か白い花が写っている写真だった。

「これ、何?」

「月見草だよ。瑞樹に渡せばわかるから」

「部活一緒なら、なんで直接渡さないの?」

「君から渡して欲しいんだ、どうしても」

男性の口調は柔らかだったが、瞳には強い意志を感じて加奈は戸惑った。

「よくわからないけど、わかった。渡しとく…」

終始見つめ続ける熱い瞳。

どこかで、会っている?

そんな想いがよぎったが、すぐに打ち消した。

こんな綺麗な顔をした人なら覚えていてもいいはずなのに記憶にはないもの。

「あの…名前なんて言うんですか?」

男性は少し薄暗くなった空にぼんやりと霞がかった月を見上げて言った。

「須藤十夜(スドウ トオヤ)」


男性はそう言うともう一度加奈を見つめ不敵に笑った。

「そして…君が好きだ。何世紀も前からね」


冷たい突風が橋の上を伝って加奈と十夜の体温を下げるように吹き付けた。

だが加奈は体の奥底に渦を巻いている熱い炎のようなものを感じ取っていた。

なぜかこの想いに触れたことがある気がした。

記憶はなくても体がその熱を覚えている。

赤くなった加奈の顔を見た十夜は瞳を細めてフっと笑うと、言った。


「冗談だよ」









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