月夜の天使
雨・雨・雨。

朝から冷たい雨が降り続いていた。

秋の雨は物悲しい。

そんな言葉が頭に浮かんだ。

「加奈!ちょっと、彼氏できたの!?」

「へ!?」

放課後、掃除を終わらせた加奈が教室を出ようとしたその時、清香に腕を引っ張られ引き寄せられた。

「さっき、真菜から聞いたんだ。昨日加奈が橋のところで、須藤くんと一緒
にいたって」

清香は興味深々だ。

噂のキャッチなら校内の誰にも負けないかもしれない。

「違うよ。用事があって声をかけられただけ。瑞樹に用があっただけだから…」

「そっか~。でもチャンスなんじゃない!?須藤くんてすっごいモテるんだよ。かっこいいし、スポーツ万能、頭も良くて、なのに彼女いないなんてあり得ない!加奈、頑張っちゃいなよ!」

「清香~!そんなけしかけないでよ」

「渡瀬加奈!」

甘く低い男性の声がすぐ近くで聞こえた。

加奈と清香は驚いて同時にその声の方を振り向いた。

見ると、十夜が両手をポケットに突っ込み、教室のドアに寄りかかっていた。

須藤十夜・・・今の全部聞かれた。

「なに驚いてんの?今日約束してたから教室まで迎えに来たんだぜ。」

「え?約束!?」

清香が口を大きく開いて驚いた表情で叫んだ。

「お友達も興味深々みたいだから、一緒に来る?」

清香はぼーぜんとした顔でぶんぶんと首を振る。

「じゃ、加奈ちゃん借りるよ」

そう言って、須藤十夜は不敵に笑った。

加奈はただ唖然として何も言うこともできずに。

須藤十夜に腕をつかまれ引っ張られるままに、加奈はただ須藤十夜の大きな背中を見つめるだけだった。

ぼーぜんと立ち尽くす清香のあっけにとられた顔をあとに残して…。











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