月夜の天使
「加奈!こっち来てみろよ!」

「うん、十夜、今行く!」


切り立った崖の上に、月が優しく真円を描く。

「ほら、瑞樹が落としていった月見草が咲いているよ」

夜の闇の中、月の光に照らされ、真っ白な光を浮かび上がらせる月見草。

たった一人で、崖の先端に、ひっそりと咲いている月見草。

何度もその花びらを落としては、夏になるとまた生まれ変わり、永遠の命を咲かせる。

加奈の胸に、今は会えないその人への愛しさがこみ上げる。


「ママ!月見草って『えいえん』なの?」


月見草を不思議そうに見つめる愛しい娘。

「そうよ、美月。月見草は、永遠に生まれ変わって、愛しい人を探すの」

「ふーん、じゃあ、この月見草はまだ見つけてないんだね。可愛そう・・」

十夜が美月を肩に乗せ、月を指差す。

「美月、この月見草はね、月が見護ってくれてるから寂しくないんだよ」

「そっか~。よかった!」

無邪気な笑顔で月を見上げる美月。

「ねぇ、パパ。美月も見つかるかな?イトシイ人。パパとママみたいに・・・」

「・・・見つかるよ、美月が本当に愛するなら。パパは永遠に片想いでもいいくらい、ママを愛したんだ」

加奈は、十夜の肩によりそって、美月に見えないようにそっと一すじの涙を流す。

「ママ、お月様ってとっても綺麗だね」

「・・・そうだね、美月。あなたの名前と一緒ね」





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