月夜の天使
本当の父親は、加奈が10歳の時に事故で亡くなった。

母親は1年後、加奈を連れて再婚した。

その時から加奈には、血のつながらない父親と弟ができた。

父は仕事が忙しくほとんど家にはいなかったが、たまに加奈に会うと、とても優しい笑顔を見せた。

母は、過剰なほどに父を愛していた。

「加奈はまだ小さいからわからないわね。大切な人を守るためなら、女はなんだってするわ」

加奈は小さいながらも、母の言葉の意味を何度も考えた。

母は事故で亡くなった加奈の父親が恋しくてたまらないのだろう。

今度こそ大切な人、再婚相手の父を守ろうと必死なのだ。

再婚してからの母は、加奈をあまり構わなくなった。

加奈の学校の成績や行事にもほとんど関心を示さなくなった。

「ねぇ、瑞樹。加奈、嫌われちゃったかなぁ」

学校の帰り道、弟の瑞樹と一緒に歩いていた加奈はぽつりとつぶやいた。



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