月夜の天使
「渡瀬さんにぜひお願いがあるの」

「なに?」

「渡瀬瑞樹くん、あなたの弟を私に紹介してくれないかしら?」

「……?」

一瞬、なんのことを言われてるのかわからなくて絶句した。

凛音の静かな微笑みには何か威圧感さえ感じた。

「紹介って、どういう意味ですか?」

「学園祭で『月夜の天使』という演目をやるの。その天使にどうしても瑞樹くんが必要なの」

「・・・へ?」

加奈は思わず、間のはずれた声をあげた。

「なんで、瑞樹?瑞樹は演劇経験ないし、大体、学園祭までもうあまり日がないのに・・・」

「大丈夫よ。瑞樹くんは天使のイメージにぴったりなの。セリフはあまりないし。それに彼には何よりも人を惹きつけるオーラがあるもの」

凛音の表情は自信に溢れていた。

ほんとうに瑞樹に演技をさせる気なんだ。

「加奈!すごいじゃん!凛音から直に頼まれるなんて!凛音は人を見る目がすごいんだよ。瑞樹くんなら絶対うまく演れるよ!」

清香ってば・・・。

瑞樹はいつカインの一族に襲われてもおかしくないのよ。

それどころじゃないのに!

心の中で清香の浮かれっぷりにあきれながらも、加奈はなんとか断る口実を探そうと必死になった。

「あの、瑞樹そういう人前っていうか、目立つことはあまり好きじゃないし」

「あら?私だって1年の時はそうだったのよ。瑞樹くんの可能性をつぶしちゃだめよ」

「・・・・」

「決まりね!加奈」

瑞樹・・・ごめん!

嬉しそうな清香を尻目に、加奈の気持ちはどんどん重くなる。

瑞樹になんて言ったらいいのよ…。
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