群青ホームラン
「このまま帰る?」
香月駅で降りた俺たちは足を止めた。一緒に帰る時はだいたいこのまま別れるか、少し俺の家に寄る程度。
「うーん。どうしようかな」
迷う青木の回答を待たずに俺はさらりと言った。
「寄ってけば。まだ時間も遅くないし」
青木と会う以前の俺からは想像できない言葉。だって青木といると落ち着くし安心する。
それで別れ際は少し寂しくなったりする。
付き合う前から青木は俺の隣にいたし、距離感はやっぱり変わってない。でもこうして見ると少しは彼氏彼女らしくなってきたのかな?なんて思ったりするけど。
俺の家に着くと、青木は必ず母さんの仏壇に手を合わせてから俺の部屋に入る。
「忘れずにお水取り替えてるね」
仏壇に飾ってある花を見て青木が安心したような顔を見せた。
「まあね。最近じゃ習慣みたいになってきたから多分忘れないよ」
“多分”なんて曖昧に言ったけどそれは嘘。
滅多に座ることのなかった仏壇には毎朝手を合わせるし、花の水替えも忘れたりしない。
今までやらなかった分、ちゃんとしたいしそれが母さんへの供養にもなるから。
そのせいなのか、あれから母さんの夢を見なくなった。
もしかしたら安心して行くべき場所へ行けたのかな、なんて勝手に思ったりしている。