漆黒の瞳
第一章
――出会い
涼しい爽やかな風。
空を仰げば、澄み渡った青が見渡すかぎり広がっている。
「……行ってきます」
私は小声で呟いて、家を後にした。
高級住宅街を俯き加減に早足で歩き、ビルの間をくぐり抜けて、そして到着したのは駅だ。
カードを翳して改札口を通って階段を降りプラットフォームに行けば、丁度電車が滑り込んで来る。
朝の混み合う前の静かな電車へと乗車し、一車両目の右側の二つ目の長椅子の一番手前に座った。
ここが私の定位置。
いつもの場所だ。
――電車が走り出す。
心地好いリズムを感じながら、本を開いた。
今日の本は推理物。因みにドイツ語。
物語に引き込まれていく。
「次は加賀谷~、加賀谷です」
ハッと本から目を上げた。気が付けば目的地は目前。
いそいそと本を仕舞い、立ち上がった。
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