漆黒の瞳
濃紺のブレザー、水色のネクタイ、真っ黒な革靴。
私と同じ恰好をした人の群れの流れに従い、坂道を登っていく。
着いた先は公立加賀谷高校――私が通う高校だ。
水色のネクタイは一年生、薄緑のネクタイは二年生、灰色のネクタイは三年生。
つまり私は一年生。
昇降口で革靴からスリッパに履きかえ、一階の一年三組の教室に向かう。
後の出入口から入ると、まだ誰もいない寂し気な教室が目に映った。
窓側の三番目の自分の席につき、また本を取り出して開く。
十分ほどそうしていると、教室のドアが開く音がして、振り返れば一人の女子生徒が教室に入ってくるところだった。
「おはよう、糸柳(しりゅう)さん。今日も早いね」
「――斎藤さん。おはようございます」
ボーイッシュなショートヘアの斎藤さんは、陸上部の期待の新人だ。
私の白い肌と比べて焦げ茶色の健康的な肌は、少し羨ましい。
身長は170cm近くあり、150cmない私が横に並ぶと見下ろされる感じがする。
明るく活発で元気な彼女はクラスは勿論、学年問わず人気で、友人が多い。
――そう、彼女は私の憧れ。
運動ができるということに憧れているわけではなく、内面も外見も私の憧れなんだ。
色白で、内気で、自分からはあまり話すことのない私の――。
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