キミを想う。



「あれ?菜々子は?もう帰ったの?」


「う、うん…。次、移動教室なんだって」


「へぇー」


屋上から帰ってきた瀬野くんは、いつも席に座ってなかなかどかない菜々ちゃんが既にいないことにびっくりしていた。



「それにしても屋上は暑いな」 


小さい団扇でパタパタと扇ぎながら席に着く。


額からは汗が流れていて、外の暑さが伝わってくる。


教室も窓が空いているだけで蒸し暑いが、外で直接陽射しを浴びているよりはマシだと思う。



「あ、これやる」


「え?」


そう言って瀬野くんは、小さなパックのイチゴオレを私の机に置いた。



「お茶買おうとしたら、間違って買った」


「…あ、ありがとう」


どうしよう。


たったこれだけのことが嬉しくて、頬が緩みそうになる。


瀬野くんから貰った初めての物だからか、イチゴオレが宝物のように感じる。



「そんなに嬉しかった?」


可笑しそうに笑う瀬野くんに、ニヤついていたのがバレていたんだと恥ずかしくなる。



「あ、今日の勉強会どこでする?駅前のフードコートでいい?」


思い出したかのように言う瀬野くんに、「場所は任せます」と答える。


「あ、あのそれで、勉強会、菜々ちゃんもいいかな?」


「菜々子?いいよ。ゆずがその方が緊張しないで済むんなら」


お見通しな瀬野くんに胸が苦しくなる。



「ありがとう…」


ボソッと呟く私に瀬野くんは笑顔だった。



< 123 / 229 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop