キミを想う。
「それより今、暇?」
思い出したかのように菜々ちゃんはスマホの画面を確認した。
「特にすることはないけど…」
一人でウロウロするつもりだったし…と、ユキくんの方を見ると目が合ってしまった。
ちょっと不機嫌そうな表情をしているように見えたが、菜々ちゃんの言葉にそれどころじゃなくなった。
「ゆずにお願いがあるんだけどいい?友達が今から体育館でバンドのステージをするみたいなんだけど、ボーカルの子が体調崩したみたいで、ボーカル探してるみたいなの!」
えっ…、嫌な予感がする…。
菜々ちゃんから思わず後退りをしてしまう。
「お願い!歌って!!」
「無理!!」
手を合わせてお願いする菜々ちゃんの言葉に食い気味で拒否する。
「絶対に無理!!人前で歌えないよ」
「大丈夫!ゆず歌上手いから!!」
「菜々ちゃんが出なよ!」
「私は恥ずかしいし、なにより歌が上手くない!」
「わ、私だって恥ずかしいし、上手くない!」
逃げないように私の手を掴む菜々ちゃんと、菜々ちゃんから必死に逃げようとする私を、ユキくんは静かに傍観している。