Shoegazer,Skygazer
「それじゃあ、ミヤタ君の名前も聞かないでおくよ」


両手を腿につき、上半身をこちらに突きだしながら首を傾げて、まるで小さな子供に言い聞かせるような声でミケはそう言った。

それを俺は鼻で笑う。


「教えてあげるなんて言ってないけどね」


「ひっどーい、意地悪」


拗ねるように、わざとらしく頬を膨らますミケ。

こうして他愛の無い会話が弾むのが心地良い。


他の、例えば同級生だったら平然とやってのける事だろう。

だけども俺にとっては今まで逃げ続けていて、ちっともやろうともしなかったしできもしなかった事。


「なんか、今日のミヤタ君はよく笑うよね」


俺の顔を覗きこむようにしてきたミケの顔を見る。

慈しむような笑顔。

今まで見てきた誰の笑顔よりも優しくて、素直で、柔らかい。


その背中の向こうに広がった青い空は、死にたくなるほど『綺麗だ』と思った。

こんな感情を抱くのは、いったいいつぶりだろう。



「さあ? 楽しいんじゃないかな」



太陽の光にか、彼女の内側から滲み出る生きるエネルギーのようなものにかわからないが、眩しくて目を細めた。

俺は空を好きになるまで、彼女の名前を知るまで、きっと死にながらそれでも生き続けるんだろう、と思う。
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