Shoegazer,Skygazer
「へー、そういうのちゃんと持ってるんだ」


ミケがどこか感心したような声をあげた。

なんだかんだで外にいることが多いし、この季節には必需品とも言える気がする。


「あたしいつも手ぶらでなんにも持たないからなー」


はいはいそうですか。

相手にするつもりはないので、ミケの言葉は無視していく。

すぐ傍で俺に向かって話しているのだからもちろん聞こえてはいるが、相手にするだけまた長引いて疲れるだけなのを分かっているからだ。


相手がミケでなくとも、人と話すのはあまり好きではない。

初めて会ったときの俺が饒舌だったのは、たまたまそういう条件が揃っただけ。

軽く水気を拭い終えた俺は、タオルを鞄にしまい直して店内に足を踏み入れた。


「あ、待ってよー」


やっぱりついて来るのか、このストーキング女め。


――冷房の効いたコンビニ内の室温は低く、雨水に濡れた体にはいささか涼しすぎるほどだった。

急速に体表の温度が下がり体温とギャップが生じるような感覚は、あまり気分のいいものではない。

それ以外にも色々な要素が絡んでいるせいで、余計に。


ドアのすぐ左手に並ぶビニール傘を適当にひとつ掴む。

まだなにかぶつくさ言い続けているミケは意識からシャットアウト。

常連すぎて一部店員には顔を覚えられていそうだから、早急に会計を済ませて店を出ないと、ミケがなにをしでかすか分からない。

幸い、レジに立っている店員は見覚えの薄い若い女だった。

中年女性だと絡まれかねないが、これなら大丈夫だろう。

< 42 / 43 >

この作品をシェア

pagetop