Shoegazer,Skygazer
「……生まれる前に、戻れるものなら戻りたい」
とくに深く考えずに答えた俺を、彼女は鼻で笑った。
「なにそれ」
そもそも俺が生まれなければ。
母は身を粉にしてまで働く理由はない。
自分一人が暮らせればいいのであって、俺という養うべき対象は存在しない。
それに俺だってこんなに悩まなくて済む。
「ボタイカイキ、ってやつ?」
彼女の口にした母胎回帰とは、いわゆる母親の胎内に帰りたい願望のこと。
外敵から襲われることもなく、ただ暖かな場所でなにもせず過ごしていたらいいだけ。
ゆっくりと響く鼓動のみに体を委ねてたゆたうだけ。
ああ、俺って徹底的にマザコンなのかもしれない。
そのくせ空の青さから目を背けているあたりはファザコンか。
母親からの期待と、父親を奪った空を恐れている。
自分を含めて全てを騙し騙しやっていくことに疲れた。
「もうどうしようもないよ、俺」
「そうだね」
うなだれて両腕を腿の上につくような姿勢になったって、彼女はからりとした声で応じるだけだった。