愛して。【完】
――パタン
扉を閉めた瞬間、足に力が入らなくなってその場に崩れ落ちる。
ガタガタと音が鳴りそうなほど震えた体は、自分を抱き締めるように服を握っても、止まらない。
『拉致られたら、回されるかもね』
颯の言葉が、頭の中に浮かんでは消えて行く。
“回される”
それ以上の恐怖なんて、あるのだろうか。
私には…そんなもの、ない。
悲しいも、寂しいも、捨ててきた筈の感情で。
同じく捨てたはずのその感情は、忘れることさえ許してはくれない。
その、“恐怖”と言う感情だけは。
涙は、流れない。
ただ、震えが止まらないだけ。
ただ――…怖い、だけ。
それだけ、だ。