愛して。【完】
*six*
幸と不幸
目が覚めた時、目の前には蓮がいた。
厚い胸板にあたしを閉じ込めるように伸びた腕は、あたしの腰へと回っていて。
どくどくと、心臓が再び大きく音を上げ始める。
何なの、これ…
昨日から、あたしの心はおかしい。
大河や颯、隼にタカ…光や虎太郎――みんなの行動が、嬉しく思ったり…かと思ったら苦しかったり嫌だったり。
そして、蓮の行動全てが、あたしの心の中に入り込んでくる。
心の浮き沈みが激しいとでも言うのだろうか。
でも、このままじゃきっと…あたしは、あたしではなくなってしまう。
蓮が、みんなが眩しくて、温かくて…自分が変わってしまいそうで、怖い…
蓮は寝ているのだろう、私が動いても何の反応も示さない。
絡み付いた腕を無理矢理解こうとすれば、案外すんなりと離れた。
見えなかった所が見えるようになれば、蓮の綺麗な顔が目に入る。
程よく焼けた肌。
閉じられた瞼と共に長い睫の影が落ち、薄い唇がほんの少しだけ開いている。
何か、色気放出してるし…ムカつく。
こんな無防備な姿、見せないでよ。
こんな姿見たら……心臓がもっと騒ぎ出す。
あたし、ほんとおかしい。
戻さなきゃ。
いつもみたいに、戻さなきゃ。
…出よう、この部屋から。
この部屋から出ればきっと、楽になる。
ケータイを見れば、時刻は7時。
ずいぶん早く起きたらしい。
きっとまだ、みんな起きていない。
てことは、まだ準備しなくても大丈夫だよね?
うん、怠いし顔だけ洗って出よう。
その通り顔を洗って部屋から出る。
思った通り、出た先の幹部室にも誰もいなかった。