愛して。【完】
「はあ?」
案の定、意味がわからないといった顔であたしを睨みつけてくる。
「はあ?じゃなくて。ほら、“真梨”って呼んでみなよ」
「おま、バッカじゃねぇの!だ、誰が呼ぶかっつーの」
「…呼んでくれないんだ」
わざと少しシュンとして、光を見上げる。
こうすれば言うかな、と思って。
「お、俺はそんなんで呼ばねーからなっ」
でも、光は少し赤くなった顔でそう言うと、扉の前にいたあたしをどかして、中に入って行く。
「んじゃあ、呼ぶまで口きかないから」
少し意地になってそう言えば、光は最後に「誰が」と零して中に入って行った。
虎太郎が名前を呼んでくれた時、思ったより嬉しかったから言ってみたのに。
まあ、一番の理由は慌てる光を見てみたかったっていうだけなんだけど。
「そんな顔で言っても説得力ないし」
笑いの含まれた声は、誰にも届かずに消えて行った。