愛して。【完】
「……っ」
綺麗な顔に、息を呑む。
気を抜けば、キスでもできそうな距離だ。
生暖かい吐息がかかって、気持ちが悪い。
「ふふ、可愛い。固まっちゃって」
そう言って、星宮千早はあたしを押し倒した。
「ちょっ…!」
「んー、どうしよっかな……ただするっていうのも、ねぇ?」
男にしては細い指が、あたしの頬に触れる。
あたしの体がビクッと揺れるのを見て、星宮千早は楽しそうに笑った。
体が過剰に反応しているのは、わかっている。
ただ、恐怖が煽るんだ。
何でここにいるのか、理解が出来ないわけじゃない。
だって、目の前にいる男は邪鬼の総長らしいから。
一見普通よりカッコいいさわやか優男だけれど、滲み出るオーラがそれを許さない。
こいつは確かに、邪鬼の総長だ。
少なからず、蓮と同じオーラがある。
そして、確か邪鬼は獅龍と敵対してる筈。
あたしは一応獅龍の“姫”。
あたしはきっと…邪鬼に、拉致られたんだ。